− わたしのしごと − 井上展弘(井上染物店7代目)

By 2017.12.01PEOPLE

江戸時代末期に創業した井上染物店。藍染めから始まり、子どもの成長を願う勇壮な武者絵巻として端午の節句に立てる「武者のぼり・鯉のぼり」を2代目、3代目が取り入れました。立体的に堂々と染め抜かれたのぼりが評判になり、井上染物店で染められた武者のぼりは「甲州武者のぼり」と独自の呼ばれ方をするように。現在その伝統の技法を受け継いだのが、7代目当主の展弘さん。染色技術を駆使した郷土伝統工芸品を日々制作しています。

「家に入って仕事をするようになって約10年が経ちます。技術的なところをもっと上げていかないとならないですし、今までと同じことをやっていても続きません。鯉のぼりも生活にあわせて、小さいサイズも多く出るようになってきています。代々続いてきた技術を受け継ぎつつ、時代にあった染めの提案をしていくのがわたしの課題だと思っています」

のぼり類を染める工程は、糊づくりから始まり、布の精練、下絵写し、糊置き、豆汁を塗り染付、色止め、その後水洗いして干し、仕立てから完成します。一連の染めの作業は展弘さんが担当しますが、下準備や一人ではできない作業は家族で分担しています。家族と仕事をする、いわゆる“家業”なのだが、井上さんにとってはそれがあたりまえの日常になっています。
「わたしが中学くらいの頃には何かしら家のしごとを手伝わされていました。慣れてしまってたし、家族と仕事していることが日常です。ケンカをしても尾をひけないというのもありますね(笑)。誰か一人が欠けると仕事がまわらなくなってしまうという脆い一面もあるんですよ。それでも途切れることなく先代たちが繋げてきてくれた技術や道具を、これからも残していくのもわたしのしごとです」

井上染物店ではお客さまから直接の注文を受け制作します。展弘さんの代になってからは、染めをいろいろな商品に展開することにもチャレンジしているんです。
「このしごとを始めて感じることが、昔に比べて染物が一般の人の生活とかけ離れてしまっているということです。日常の中で使える手ぬぐいや靴、バッグなど、生活の中にあるものも染めて使うことができます。そういった身近なもので染めを体験できるワークショップなども今後は考えていこうと思います。触れてもらうことで染物の良さを実際に感じてもらえたらいいですね」


井上染物店
山梨県南アルプス市古市場460
/ :055-282-1030
http://inosome.blog52.fc2.com
inosome2@forest.ocn.ne.jp

BEEK

Author BEEK

やまなしの人や暮らしを伝えるフリーマガジンBEEKです。日々の暮らしの中から、やまなしの“いま”を伝えます。

More posts by BEEK