【ON READING/読む時間】 #023「ことばを束ねるひと」

宮城と愛媛に住む二人の友人たちが、このコロナ禍の中でさまざまなメンバーに声をかけ、フリーペーパーの形で冊子を作った。
タイトルは『まどをあける』。
「遠くで暮らす誰かの目の前の景色を想像する」というテーマで、日本各地に暮らす性別も年齢も職業も様々な10人が綴った日々の、小さなエッセイ集だ。

5月の初めに「寄稿してもらえませんか?」と声をかけてくれたのは、5年前に高松の書店で知り合った佐藤友理さんという女性だ。
私の祖父母も宮城出身なので、佐藤さんが宮城県出身だと聞いた時にはなんとなく親近感を感じたのだけれど、それ以外にも彼女が持っている小動物とか、さりげない野草のような雰囲気や、その話し方に私は最初から安心感を抱いた。
佐藤さんが働いていた高松の本屋、BOOK MARÜTE(ブックマルテ)を初めて訪れた時の、そこで過ごした心地よい時間は今も記憶に残っている。
写真集が中心で、ギャラリーが併設されている本屋というと、敷居が高かったり妙に緊張したりする場所も多いものだけれど、あの頃のマルテでは、間違いなく佐藤さんがその場の空気を中和させていたのだと思う。
おかげで高松はあれ以来何度も通ってしまうほど好きになった。
そして数年後の今年の春、まさか世界中がウイルスに脅かされて、こんなにも日常が変わってしまうなんて思いもしなかった。
日々報道されるウイルス関連の情報に心が揺らされ続けていた頃、佐藤さんに久しぶりに電話をかけた。ちょうど佐藤さんも私に連絡しようと思っていたらしい。
「冊子を作ろうと思ってるんです。」と、佐藤さんから聞いた時、その行動力に心を動かされた。
佐藤さんともう一人の発行人で、同じく高松で知り合った中田幸乃さんの二人がことばを束ねるために、私でできることがあるならば、最初のささやかな動力になりたいと思った。

それからひと月が経って冊子は完成し、私の手元にもやってきた。色づかいや手触りの良いその小さな冊子には、10人それぞれが過ごした時間や今回の状況下で考えたことが詰まっている。
原稿を書いた時から比べたら、まだ楽観視はできないけれど、自分の周りの状況も少しずつ落ち着いてきているのがわかる。
私が自分と家族と、自分のほんのわずかな周辺に目を配るだけの日々を過ごしていた中で、遠くの存在にも思いを馳せてくれた発行人の二人には拍手を送りたいと思う。
梅雨入りで今日も朝から雨が降っている中、たまたま見つけた作家の吉川英治の言葉が、なんだか彼女たちの姿に重なった。
『晴れた日は晴れを愛し、
 雨の日は雨を愛す。
 楽しみあるところに楽しみ、
 楽しみなきところに楽しむ。』
そして、私たちがこの春の日常の変化の中で得たことのひとつには、困難ばかりではなくこんなことだってあるのかもしれないと思った。

[BOOK LIST]

「まどをあける」(madowoakeru.com)
企画・編集/佐藤友理・中田幸乃
絵/上野あづさ
デザイン/佐藤友理

他者の視点に思いを重ねられる想像力が、これから先あらゆる場面や世界において、大切になってくると思います。冊子の入手方法はぜひサイトをチェックしてみてください。

「のどがかわいた」(大阿久佳乃/岬書店)

冊子「まどをあける」の中でも、おすすめの本として紹介した本です。
2000年生まれの著者が、中高時代を通して考えていたこと、行きつけの古書店主との交流を通じて高校時代から作りはじめた、詩や文学を紹介するフリーペーパーの内容などをまとめた小さな本ですが、自分のこれまでを振り返らせてくれる一冊でした。年齢も性別も超えて、いい文章には何かを考えたり気づかせてくれる力があるのだと思います。


 

石垣純子

Author 石垣純子

mountain bookcase 長野県出身。本屋mountain bookcase店主。お店は基本的に土日月オープン。平日は八ヶ岳山麓の「今井書店ふじみ店」の書店員もしています。 Facebook / Instagram

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