ADVENTURE in KOFU CITY Issue 01 「ぼくらのCity、甲府。」

さて、突然ですが山梨と聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょう? ワイン、温泉、富士山あたりはよく聞きます。他にはなにか思い浮かぶでしょうか? そして山梨の県庁所在地、甲府のことで知っていることはなにがあるでしょうか? どんな風土でどんな人や暮らしがあるのか、思いつくことはあるでしょうか。
今回の連載は山梨のCity、甲府のはなし。いわゆる「中心」と呼ぶ、甲府中心市街地のはなしです。
自分たちの“まち”は実際にその場所に行かないとどんなお店があるか、どんな人がいるか、ほんとうの意味で気づけないことが多いんですよね。どこのまちも同じだと思いますが、ガイドブックにあるお店に数件行っただけではなかなかそのまちのことを把握できないものです。
ぼくもBEEKの取材や友人の繋がりが増えて行くにつれ、実際まちに足を運ぶようになって知ったこと、気づいたことがほとんどです。
ここ何年かで“移住”や“働き方”などが話題になる中、甲府のまちにも多くの変化が起こっているのではないかと思います。
古きも新しきも程よくミックスしながら。

ぼくらのCity、甲府。

まずは甲府のまちがどんなところか、思い当たるところを記してみたいと思います。
甲府といえば武田信玄! とすぐにその名前が出てくる方も多いかと思います。信玄公を御祭神とする武田神社も有名で多くの参拝者が訪れます。
そして今年2019年最大のトピックは、武田信玄の父、武田信虎がつつじが崎に館を構えた1519(永正16)年の開府から500年が経ったという「こうふ開府500年」の年。アニバーサリーイヤーとして去年から様々なイベントもおこなわれています。500年前の甲府がどんな場所だったかは想像もできませんが、500年後のこの甲府のまちも信玄公は想像できなかったでしょうね。先人たちの偉業のうえに、ぼくらは生きているんですね。

そして個人的に甲府のまちで大好きなところといえば、銭湯が多くあるということ。そして甲府の銭湯のほとんどが天然温泉を供する温泉銭湯なんです。いつでも気軽に天然温泉銭湯に行ける環境がある県庁所在地って他にあまりないのではないでしょうか。仕事の移動時にちょっと立ち寄りで入ったり、夜のお風呂の代わりに考え事しながら入るのにぴったり。この冬もなんどもなんども通っています。寒い冬もあったかいお湯につかるとほんとうに芯から温まります。
ぼくの今の生活には銭湯、温泉が近くにないなんてとても考えられません。

そして住んでいる人もあまり気づいていないかもしれませんが、アクティビティにもぴったりなのが甲府のいいところ。甲府駅北口からすぐに山にアクセスできる環境があります。走ったり登ったり、時には林道をMTBで走ったり。
林道でなくてもとても走りやすいサイクリングロードもありました。そう、我らが荒川河川敷。日曜の朝ともなれば、ウォーキングをする人、川に生息する鳥を撮るのにカメラをかかえて自転車で移動する人、テニスコートで汗を流す人などさまざま。ゆっくり景色を眺めながらサイクリングもできる甲府市民の憩いの場なんです。まちから河川敷にアクセスできる道は多数。ちょっとパン屋さんに寄り道や動いた汗を流すのに銭湯に立ち寄るなども気軽にできてしまいます。

現在の甲府の人口は19万人を下回り、2018年4月段階では全国の県庁所在地の中で人口が最も少くなりました。東京がお隣ということで、ぼくもそうでしたが気軽に東京に行けたり住めたりするため、就職の段階で東京に出る若者も少なくはありません。2時間以内で新宿に着けるというアクセスの良さ。ぼくも高校の時点で地元の甲府ではなく、東京に出かけて買い物をしていました。
東京にはなんでもある。最先端は常に東京だ。山梨にはなんにもない。こんなまちはイヤだ。
10代後半、20代のうちはなんとなくそう思っていました。
そして30代で山梨に帰って来たぼくは、今とても楽しみながら甲府のまちに通っています。
銭湯も山も自然もおいしいものも、つまらないと言っていた時から変わらずにあったもの。そのことに気づいていなかった、目が向いていなかっただけだったんだと気づきました。「知っている」と「知らない」ことの差はとても大きい。その差を埋めたくて、小さなメディアの「BEEK」を始めたという経緯もあります。

「移住」や「Uターン」などの言葉がトレンドになるくらい地方が注目されるようになった昨今、同じように甲府のまちに帰ってくる人、新たに移り住む人がとても多くなってきたと感じています。
新しい店を作る人たちの目線は、しっかりと甲府のまちに根を張っていました。数年前までコーヒーカルチャーのことが語られることのなかった甲府でしっかりとまちに馴染んでいるコーヒー屋さん、まちの中心で醸造されるクラフトビール、ないからつくろうと思って廃ホテルをみんなで改装したゲストハウス、10年前は誰も目を向けなかった山梨のワインに注目して県内外から人が集うカフェ、芝居小屋を復活させたライブハウス。そしてあたりまえのように昔から商売としてお店を開け続けている老舗の数々。新旧の人の想いがミックスされた今の甲府はほんとうにおもしろいと思っています。

ここまで甲府のいいところを書いてきましたが、もちろん実際に移り住んでみて不便だなと思うところやいわゆる地域課題というものだってあります。甲府市として、取り込んでいる地域課題は下記のことだそうです。
「減り続ける働く場所と働く人、稼ぐ力」
「育たない新しい産業」
「若者の首都圏、県外への流出(とくに女性が多いそう)」
「人口や地域経済規模の縮小などによる税収減少」
「高齢化に伴う義務的経費の増大」
「公共施設の維持管理費の増大」
「地価の下落」
そして「活用されていない多くの空き家」。
これらの課題というものはやはり解決するべくその机上にあがるわけであって、問題をピックアップするという行為はとても重要なことだと思います。なにせ甲府は人口減少社会のトップランナーを走っている市とも言えるのですから、そこでの解決策は未来への解答になる可能性を秘めています。
今まではある程度賑わいがあるから深刻にならなかった問題も、これからの時代ではダイレクトに影響を受けることばかりです。甲府市としては、これからの暮らしの課題を浮き彫りにしそれを解決していく仕組み作りを考え、未来へつながるまちづくりを長い目線で策定していこうと考えたそうです。
そのこたえのひとつとして、2016年に「甲府リノベーションまちづくり構想策定委員会」が発足しました。

かく言うぼくも、この策定委員会に選抜されました。策定委員の中で唯一甲府に住んでいない人です。
ぼくはいつも「まちづくり」という言葉には少しひっかかるものを感じていました。ぼくはぼくなりの考えで自分ができること、まちにあったらいいだろうなということをしてきたつもりです。ただ、そんな個人の考えだけで動くのではなく、一度パブリックな場に身を投じないとわからないこともあると思い、甲府というまちをいろいろな視点で体感したかったので今回の役目を引き受けさせていただきました。
未来は自分たちの手でつくる。
ぼくが策定委員になって、イベントのチラシを作るときにこのキャッチコピーをつくりました。
未来って誰にもわからない。
わからないことがあると人は本能的に見ないふりをしようとするところがあるけど、そうではなくて、わからないことをしっかり見据え、みんなで答えを出していきましょうという想いと、甲府のことを考える全ての人がそのつくり手だと思ってこの言葉を選びました。
まちは人の想いの集合体なはずです。そんなまちの課題を解決する一つの手法が策定委員会の頭につく言葉、「リノベーション」。
リノベーションまちづくりが甲府のまちにどういった変化の兆しをおこしたのか。次回からリノベーションの意味と、甲府市がおこなったそのとりくみを紹介していきます。Issue 02へつづく
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Author BEEK

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