見ながら、そして見終わったあと、「なんてひりひりとした やさしさにあふれているのだろう」と思った。
是枝監督の作品は2004年に公開されて話題になった、「誰も知らない」を地上波で見たくらいで、最近の作品は俳優陣の華やかなイメージもあって、なんとなく興味が持てずにいた。
いつもだったら、たとえカンヌ国際映画祭の最優秀賞を受賞して話題になった作品だったとしても、あまのじゃくな私はなかなか観に行かなかったかもしれない。
けれど今回については、友人たちのおすすめであったのと、安藤サクラをはじめとする俳優陣が個人的に好きだったので、なんだか見逃してはいけない気がして観ることにした。
(ちなみに、これまでの人生でことごとくハリウッド的な娯楽大作映画を避けてきたので、初めてTOHOシネマズで一番大きなスクリーンと座席を前にした時は、その大きさに正直おののいてしまった(笑)。
この映画は、同居する老人(樹木希林)の年金をあてに、日々万引きをして暮らす、一癖も二癖もある事情を抱えた5人の貧困家族の話として始まる。
ある晩、老婆の息子(リリー・フランキー)が寒空の下、いつもアパートのベランダに出されている虐待を受けていると思われる、小さな女の子を見かねて連れ帰ってしまうところあたりから、この「家族」が実は他人同士で、血のつながりではないもので繋がっていることが、少しずつ違和感を生み出しながら露呈されてくる。
罪を重ねてお互いの絆を深めてゆく「家族」。話が進むに連れ、世間一般的な固定観念がどんどん揺さぶられる。
連れて来られた幼女を含め、この「家族6人」は、みんな心のどこかに傷を負っている。
一見たくましいけれど、生きていく術を身につけているようで身につけていない。
そしていわゆる一般的な社会から少し外れてしまったことで、ほんの少し何かのバランスが崩れてしまったら、その最低限の生活ですらいつでも崩壊してしまう危うさの中を生きている。
映画の中で心に残るシーンがいくつもあるのだけれど、もっとも印象に残ったのは安藤サクラ演じる、実は子どものいない女が、虐待を受けていた幼女に「『あなたのことが好きだから叩くのよ。』なんて言うのは全部嘘だから。本当はこうするんだよ。」と、ぎゅっと抱きしめるシーンだ。
まるで自分まで抱きしめられたような気がして、思わず泣きそうになってしまった。
そうなのだ、好きだから暴力を振るっていいなんて、そんな都合のいい愛はいらない。
親というのは時に「愛」という言葉を振りかざして我が子を所有物にしてしまう。
他にも、様々な男女の愛についてのシーンも印象的だった。
安藤サクラとリリー・フランキーの夫婦が裸で交わるシーンは、女の願いの切実さがにじみ出るほどエロティックで格好悪くて、とても原始的な美しさで魅力が溢れていたし、風俗店で働く妹(松岡茉優)が孤独な客(池松壮亮)と出会って、互いの心を黙ってそっと通い合わせる場面も美しかった。
その孤独の深さを同じように味わったことのある人なら、きっと共感せずにはいられなかっただろう。
個人的なことだが、この映画を見ながら、私が小さい頃に見てきたろくでもない父方の叔父たちと、複雑な思いを重ねてきたであろうその子どもたちや叔母たちの姿も思い出さずにはいられなかった。
あの人たちはその後の人生で、こんなふうに人の優しさに出会うことができたのだろうか。もう一生連絡も取ることもない彼らの人生が、自分の人生と一瞬だけ交差したような気がした。
この映画が受賞をきっかけに多くの人に観られることで、賛否両論含めてたくさん話題になるといいと思う。
「普通にそこにあるものに、いつもとは違う角度から光を当てることを意識して映画を作っている」と以前インタビューで答えていた是枝監督。
そこに答えが用意されていない分、「自分はどう感じたか」「自分ならどうしただろうか」と問いかけ、誰かと感想を交わしたりしながら、世の中で当たり前とされている枠をすべて取り払って自分なりに再考してみることも、きっと無駄では無いと思う。
何通りもの答えは、映画を観た私たちの中にある。
是枝監督の作品は2004年に公開されて話題になった、「誰も知らない」を地上波で見たくらいで、最近の作品は俳優陣の華やかなイメージもあって、なんとなく興味が持てずにいた。
いつもだったら、たとえカンヌ国際映画祭の最優秀賞を受賞して話題になった作品だったとしても、あまのじゃくな私はなかなか観に行かなかったかもしれない。
けれど今回については、友人たちのおすすめであったのと、安藤サクラをはじめとする俳優陣が個人的に好きだったので、なんだか見逃してはいけない気がして観ることにした。
(ちなみに、これまでの人生でことごとくハリウッド的な娯楽大作映画を避けてきたので、初めてTOHOシネマズで一番大きなスクリーンと座席を前にした時は、その大きさに正直おののいてしまった(笑)。
この映画は、同居する老人(樹木希林)の年金をあてに、日々万引きをして暮らす、一癖も二癖もある事情を抱えた5人の貧困家族の話として始まる。
ある晩、老婆の息子(リリー・フランキー)が寒空の下、いつもアパートのベランダに出されている虐待を受けていると思われる、小さな女の子を見かねて連れ帰ってしまうところあたりから、この「家族」が実は他人同士で、血のつながりではないもので繋がっていることが、少しずつ違和感を生み出しながら露呈されてくる。
罪を重ねてお互いの絆を深めてゆく「家族」。話が進むに連れ、世間一般的な固定観念がどんどん揺さぶられる。
連れて来られた幼女を含め、この「家族6人」は、みんな心のどこかに傷を負っている。
一見たくましいけれど、生きていく術を身につけているようで身につけていない。
そしていわゆる一般的な社会から少し外れてしまったことで、ほんの少し何かのバランスが崩れてしまったら、その最低限の生活ですらいつでも崩壊してしまう危うさの中を生きている。
映画の中で心に残るシーンがいくつもあるのだけれど、もっとも印象に残ったのは安藤サクラ演じる、実は子どものいない女が、虐待を受けていた幼女に「『あなたのことが好きだから叩くのよ。』なんて言うのは全部嘘だから。本当はこうするんだよ。」と、ぎゅっと抱きしめるシーンだ。
まるで自分まで抱きしめられたような気がして、思わず泣きそうになってしまった。
そうなのだ、好きだから暴力を振るっていいなんて、そんな都合のいい愛はいらない。
親というのは時に「愛」という言葉を振りかざして我が子を所有物にしてしまう。
他にも、様々な男女の愛についてのシーンも印象的だった。
安藤サクラとリリー・フランキーの夫婦が裸で交わるシーンは、女の願いの切実さがにじみ出るほどエロティックで格好悪くて、とても原始的な美しさで魅力が溢れていたし、風俗店で働く妹(松岡茉優)が孤独な客(池松壮亮)と出会って、互いの心を黙ってそっと通い合わせる場面も美しかった。
その孤独の深さを同じように味わったことのある人なら、きっと共感せずにはいられなかっただろう。
個人的なことだが、この映画を見ながら、私が小さい頃に見てきたろくでもない父方の叔父たちと、複雑な思いを重ねてきたであろうその子どもたちや叔母たちの姿も思い出さずにはいられなかった。
あの人たちはその後の人生で、こんなふうに人の優しさに出会うことができたのだろうか。もう一生連絡も取ることもない彼らの人生が、自分の人生と一瞬だけ交差したような気がした。
この映画が受賞をきっかけに多くの人に観られることで、賛否両論含めてたくさん話題になるといいと思う。
「普通にそこにあるものに、いつもとは違う角度から光を当てることを意識して映画を作っている」と以前インタビューで答えていた是枝監督。
そこに答えが用意されていない分、「自分はどう感じたか」「自分ならどうしただろうか」と問いかけ、誰かと感想を交わしたりしながら、世の中で当たり前とされている枠をすべて取り払って自分なりに再考してみることも、きっと無駄では無いと思う。
何通りもの答えは、映画を観た私たちの中にある。
[BOOK LIST]
「万引き家族」/是枝裕和(宝島社)
小説版を読むことで、映画とはまた違ったディテールが味わえます。読んでまた映画を見るというのも良いかもしれません。
「映画を撮りながら考えたこと」/是枝裕和(宝島社)
2016年に出版された是枝監督のエッセイ。是枝監督の作品や制作についていろいろ知りたい!と思ったらぜひこの一冊を。