心を込めてお酢をつくる「戸塚醸造店」

By 2021.05.14SHOP

天然醸造で純米酢「心の酢」をつくっているのが、都留市夏狩にある戸塚醸造店。ここで造りのほとんどを一人でこなす戸塚さんは、もともとは地方銀行の営業マンでした。
上野原で酢を造っていた先代がいて、その方に対して銀行の立場として経営相談にのったり、時に酢の作り方なども語り合ったそう。先代が体調を崩して入院すると、ついには造りも手伝うことになり、そこから酢造りに興味を持ったといいます。
「手伝ってみたらすごい肉体労働で、当時手伝っていたパートのおばちゃん達だけじゃ到底続けるのは無理だろうと思って。いろいろな酢を造る工程を体験して発酵のことを知るうちに、この好奇心旺盛な性格が災いして、酢を造ることに興味が沸いてしまったんですよ」
先代が他界し、本格的に醸造所を引き継ぐことを決めてから、まったく醸造の知識もない中、31歳で戸塚さんは一から自分の酢造りをはじめることになりました。
「ほんとに何も知らなかったから、大変さもよくわかっていなかったんですよね。周りに同業者もいないし、本を読んでもお酒造りまではわかるけど、その先の酢になるところまではなかなか様子がわからない。先代には基本しか教わっていなかったので、一人で造り始めて最初の1、2年は試行錯誤の連続。周りにかなり助けられましたね」
その試行錯誤の日々は数年続いたといいます。わからなかったからこそ、自分なりの酢を作ろうと一念発起できたのかもしれません。
「心の酢」は、ほんとうに丁寧に、一から十まで心をこめて戸塚さんが作っています。
「安心安全なのはみなさんが口にするものだから当たり前」といい、昔ながらの作り方で自然な味、自然な香りにこだわります。心の酢はいわゆる“酸っぱいだけの酢”ではなく、旨みがありふくよかな米の香りもしっかりと感じることができます。

戸塚さんの酢仕込みは、全国でも珍しい甕を使って仕込まれます。鹿児島県福山地方で酢造りに使用していたものを譲り受け、昭和53年に先代が創業して以来大切に使っています。平成28年には長年探し続けていた甕を新たに譲り受けることが出来ました。
原料の米もいろいろ試してみて、最終的に山形の有機栽培米を作っている農家さんとの出会いから、今ではずっとそこの米を使っているそう。
そして、水もお酢を仕込むのに大切な素材のひとつ。現在は都留の工場から歩いてすぐの富士山の雪解け水を仕込み水に使っています。醸造所のある都留市夏狩地区は、十日市場・夏狩湧水群として、環境省が選定した「平成の名水百選」に選ばれました。

お酢はまず、これらの素材で麹(こうじ)を造り、お酒を醸します。
麹つくりは、米に麹菌をつけて発酵させます。
蒸米が、麹菌の繁殖温度まで下がったら種麹を振りかけて、菌が蒸米に満遍なく付くように混ぜて、ひとまとめに積み上げて保温します。24時間後、麹菌の増殖で固まった蒸米を丁寧に崩して平らに広げます。2日目になると繁殖が盛んになり、温度が上昇してきます。表面が乾いて固まってくるので、手入れをしてほぐします。
ここでも全て手仕事で機械は使いません。攪拌を機械でやることもできるのですが、その効率よりも均等に全て自分の手で感じられる範囲で作れることが戸塚さんの酢づくりで大切になっている要素です。
作業は、麹の温度や繁殖具合を見ながら、数時間おきに行ないます。

麹をつくり、お酒を醸し、酵母を加えて糖化・アルコール発酵することで“酢もともろみ”が出来上がります。今度はこれに、水と種酢(すでに一度出来上がって寝かしていた酢)を加え、発酵室にぎっしりと並ぶ甕に移し2〜3ヵ月酢酸発酵させていきます。
「甕に移して2〜3日経つと表面に酢酸菌の膜が張ってくるんですよ。この膜の張り方が大事なんです。初期の頃は、なかなか思い描くような膜が張らなかった。どうしてか分からず、発酵室に泊まり込んで観察してましたね。ずっとそこに居たら、発酵熱が出て部屋の温度が変わることや、いろいろなことが感じられるようになったんです。麹を造っていても、匂いや温度の変化などをだんだん感じるようになって、五感をかなり使うように。その積み重ねで、やっと自分が思い描く酢になってきたかなという感じです」
できたお酢は、澱引き剤や濾過剤などを一切使用せず、粕が沈むまでゆっくり待ち、上澄みを無濾過でビン詰めしています。

「先代の頃は濾過をしてたんですよ。ただ、なぜ濾過をするんだろうとその必要性にずっと疑問を抱いていましたね。何より濾過をしない方が美味しいと感じていました。そういった想いもあり、素材をより安心なものに変えて、余計なものを入れない、使わないという、今の醸造法にたどり着いたんです」
そうして手間ひまかけて造られたお酢は、お米の美味しさ、風味豊かさが伝わってくるお酢になります。麹造りから始まり、酒精発酵・酢酸発酵に約4ヶ月、そして熟成に8ヶ月以上かけているのです。
「心の酢」以外の商品も、もちろんろ過はせず、添加物も加えていません。

戸塚さんに会うといつも元気をもらっています。仕事へ打ち込む姿勢もさることながら、体力的にも精神的にもかなり追い込まれるような作りの最中でも、いつでも楽しそうに話ができるのです。
戸塚さんは常に、「大変そう」というよりも、「面白そう」とおもえることにチャレンジしているのです。
戸塚醸造で作られるお酢は、戸塚さんの心そのもの。
心の酢は調味料というよりも、肌身離せない相棒といえるものになっています。
餃子好きのぼくは、一生手放せないでしょう。


 

戸塚醸造店
山梨県都留市夏狩253  TEL : 0554-56-7431  FAX : 0554-56-7432 
代表 : 戸塚治夫
https://www.kokoronosu.jp
オンラインストア: https://kokoronosu.stores.jp

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