【心呼吸】#01 ミツマタとひーちゃん / 都留アルプス

「ミツマタを見に行こうよ!」

山の大先輩でもあるハナさんと都留アルプスに行ったのは去年の春。険しい山々をソロでも行ってしまうハナさんは、私と一緒の時はいつもこちらのゆっくりペースに合わせた希望を叶えてくれる。出発は都留文科大学の近くにある楽山球場からにした。ミツマタの群生地は歩き始めてものの15分程で現れた。毎年微妙に咲く時期が違うので、果たしてその姿を見せてくれるのか心配だったけれど、黄色い花たちは見事なまでに咲き誇っていた。

私たちは狂ったようにシャッターを切った。上から下から、表から裏から。ミツマタは引いて見ても近くに寄ってもその魅力を振り撒きまくっていた。

「いいよ、いいよ!」

私はどうもテンションが上がると、モデル撮影の巨匠のようなかけ声をしてしまうようだ。リスが相手でもお花が相手でも。うっとりする可愛さである。

たまたまそこで出逢った3歳のひーちゃんとそのママとの話も弾み、私たちの被写体はミツマタ&ひーちゃんという無限ループに入ってしまった。

聞けばひーちゃんのママはひーちゃんを背負子で背負って、北アルプスを始めあちこちの山を歩いて回っているという。登山初心者の私なんぞ、足を震わせながら何とか辿り着いた西穂高岳の独標にも、背負子のひーちゃんと大きな一眼レフ持って登る強者だった。それからもやりとりをさせてもらっているけれど、現代版トトロのめいちゃんのようなひーちゃんの成長と、まるでちょっとそこのコンビニ行くようなフットワークの軽さで山に行ってしまうママの山写真をずっと楽しみにしている。山でのこういった出逢いはいくつかあって、それは私が山が好きになった大きな理由のひとつでもある。

気がつけば1時間半もそこにいた。今日は何しに来たんだっけ。歩くという行為をすっかり忘れてしまいそうになったところで、そろそろ進もうかと、やっとのこと未練がましく歩き始めた。

途中には立派な杉林。山桜も控えめにその花を咲かせ、軽快なアップダウンを繰り返すと、千本桜植栽地にぶつかった。ちょうどよく街を見下ろすベンチとテーブルがあったのでそこでランチにすることにした。桜はまだ植えられたばかりのようで、まだその華々しい姿を拝むことはできなかなかった。数年後この桜が全て咲き誇ったらいい場所になるだろうな。

帰りは私の危なっかしい運転に最初はヒヤヒヤしていたハナさんも、車の窓から差し込む穏やかな西陽に当たって気がつけば眠っていた。冬山の厳しさをほんの少しだけ知った後の、春の山。しばらくの間、淡い黄色の花が私の心を占領していた。

 


 

◎ミツマタは古く和紙の原料として使われていたそうだ。三つに別れた枝の先に花を咲かせるのでミツマタというらしい。

◎都留アルプスは全長8kmに渡り、標高600m前後の山が連なっている。近くにあれば、今日はここからここまでとその日の気分でコースを決めて歩くトレーニング的な山になるだろうなあ。都留の人たちが羨ましい!

白倉美織

Author 白倉美織

八ヶ岳南麓暮らし。山と写真と読書、ときどき美味しいものがあれば幸せ。 Instagram

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