ハタオリマチフェスティバルがはじまる

By 2018.12.10FEATURE

今年で3回目をむかえたハタオリマチフェスティバル、通称ハタフェス。ハタフェスは富士吉田市富士山課(富士山のことや富士吉田の観光を担当している富士吉田ならではの課です)が担当して主催する、織物産業「ハタオリ」と、風情ただよう場所が残る下吉田の「マチ」を伝えるための2日間の秋祭りです。

このお祭りはいわゆる富士吉田「市」のお祭り。つまり行政が主催するお祭りです。でもイベントに来てくださったお客さんは感じてくれたかもしれませんが、出店者やイベントの雰囲気、伝え方などから行政が主導している感じを受けないと思うのです。いろいろなものさしをとっぱらったハタオリマチならではの「楽しさ」や「発見」を来場してくれたお客さんの多くが持って帰ってくれることを第一に考え、民間のぼくたちにイベントの運営を託してくれているのです。よくある運営丸投げとかではありません。役所の部署のみなさんも一緒に考え、動き、責任も負いつつ、それでもあくまで裏方として徹してくれているところに富士山課のみなさんの優しさと強さと心意気を感じています。

機屋さんやまちを巻き込みながら「産地を伝えるお祭り」に成長してきたハタフェス。そもそもハタフェスが生まれたきっかけは、この産地がここ数年、緩やかに変化をしていっているからに他なりません。ぼくは、その大きな産地のうねりの中でハタフェスの始まりとそのきっかけになる時間軸に身を置いていたようでした。今だからこそ振り返えれることで気づいたことです(まだ数年前ですが)。少し大げさに言うと、ハタフェスはこれからハタオリマチの未来へと続くひとつのポイントになると思うのです。この3年間、仲間たちと実際に運営しているからこそわかる道のりを記録に残そうと思いました。

富士吉田市は織物のまち。

ハタフェスが始まる一年半前、ぼくが富士吉田に足繁く通うきっかけになる仕事がありました。
山梨県産業技術センター富士技術支援センターの繊維部技術支援科(通称「シケンジョ」 ブログのシケンジョテキはテキスタイル専門の人もそうでない人も、織物のことやそこにまつわる話をユーモアと知識欲を満たされる気持ち満載で読めるかなり見ごたえのあるブログです)の五十嵐哲也さん(県の職員で日本屈指のプレゼン力を持っていると勝手に思っている、というかプレゼン資料と話が超おもしろい!)がそれまでのBEEKを見てくれていてくれ、「ぜひ一緒にハタオリ産地を伝えるフリーペーパーを作ってもらえないか」とご相談していただけました。当時のぼくは“富士吉田はネクタイをかなりの数作っているらしいぞ”、くらいの知識しかなく、織物産地としての認識もなく冊子にまとめられるほど織物やその商品が世間に流通していることをまだしっかりと把握できていませんでした。機織りの専門的な技術も知識もなかったぼくは五十嵐さんからのオフーを一瞬お断りしようと思いました。
しかし、やまなしを伝えるという仕事を使命と決めたからには避けては通れない地だと思い直し、ぼくみたいにまだ富士吉田が織物のまちと知らなかった人に向けて作ればよいと理解し、それならばこだわった織物を作っている人に会いにいってその想いを記録したいということを五十嵐さんにお伝えしました。そして半年間、富士吉田や西桂に通い織物産地の人やいとなみを伝えるフリーペーパー「LOOM」が完成しました。

撚糸屋さん、染め屋さん、整形さん、そして機屋さん。それぞれの工程が分業され、織物がたしかにこの街で作られていることを目の当たりにしました。多品種を織っているのも産地の特徴で、ネクタイはもちろん、傘、服地、裏地、座布団、金襴緞子、ストールなどさまざま。江戸の時代に一世を風靡した甲斐絹をルーツとする郡内織物産地の技術はとても高いものだと知ったのです。
取材で織物を織る機屋さんに通って気づいたことが、機を織る音がどこの工場にもあるということ、そして工場によって微妙に音のリズムも違っているということでした。独特のガッシャン、ガッシャンという音。場所や機械によって微妙に高音や低音の音がちがっていることをとても印象的に感じました。取材に行く度にその音が耳の中、というより脳内に残響していたような気がします。機屋さんによっては、小さい頃はこの一定のリズムの織る音が子守唄になっていたそう。ハタオリマチは機を織る音が響くまちでもあったということです。



その体験から、LOOMが完成してこの冊子と産地のことを広く伝えていこうと考えた時にすぐに思いついたことがありました。それはハタオリマチを音を媒介にして伝えたいということ。
そこで、LOOMの完成披露も兼ねた音楽会を頼まれたわけでもないのに自主企画してしまいました。富士吉田ではなく、まだ富士吉田がハタオリマチだとは知らない人が多いと思った甲府にて。「ハタオリのうたがきこえる」と題して、甲府のコミュニティスペース、文化のるつぼ へちまのイベントスペースを使わせていただきました。


演奏は甲府在住のミュージシャンでギタリスト、サウンドエンジニアの、田辺玄さん(WATER WATER CAMEL 、Studio Camel House)、ピアニスト、シンガーソングライターでもある森ゆにさんのおふたりに頼みました。田辺さんは小さい頃、お父様の病院がある富士吉田に来ることも多かったということを後から知ります。田辺さんの意向で、この音楽会のために機を織る音を録音して音源に使ってみたいということで、一緒に機織り工場をいくつかまわりました。
そして音楽会当日。
機を織る音はサンプリングとして使うんだろうなぁくらいに思っていたら、なんと音楽会数日前に産地の機織さんのための曲ができたとライブが始まる少し前に聞いて、五十嵐さんと2人でとても驚いたのを覚えています。
そう、この日に後にハタフェスのテーマソングともなるハタオリマチを伝える歌「LOOM」が誕生したのです。
はじめて生で聞いたときの感動は今でも忘れません。産地の歴史、ものを生み出すという独特の苦しみ・孤独、そしてこれからの産地や工場それぞれの未来を紡ぐような希望が入り混じった歌でした。今まで培ってきた富士吉田・西桂の機織りという“いとなみ”が音楽に昇華されていたのです。奇跡的に、いまは映像もついたMVとして見ることができます。映像の監督は写真家・濱田英明さん。
第一回目のハタオリマチフェスティバルの際に、富士吉田の街を濱田さんの視点で切り取ってほしくて写真展を依頼させてもらいました。その中で濵田さんがまちで感じたことを映像にとらえてくれていたのです。それがこのような素晴らしい映像になったのです。

ハタオリマチノキオク from Hideaki Hamada on Vimeo.

この音楽会がきっかけで、現在ハタフェスを主催する富士吉田市役所富士山課の勝俣さんに出会えました。勝俣さんはLOOMを読んで自分のまちにこんなに多くの個性的な機屋さんがいると知ってくれた1人でもあります。その後、LOOMの次年度に富士山課で秋にイベントを企画する動きが生まれ、LOOMや音楽会を見てくれていた勝俣さんがぜひ機織を軸にしたお祭りをやりたいと僕のところにあらためて会いに来てくれました。しかもイベントを一から作るところから担当してくれないかという、LOOMからさらに広がる展開の話だったのです。
正式に富士吉田市で機織りをテーマにしたイベントが開催できることが決まり(最初はハロウィン企画だったそうですが、現在産地を伝えるウェブメディア「ハタオリマチのハタ印」を編集・運営して富士吉田にも深く関わっているTrickyさんの助言でそれはなくなったそう)、BEEKではイベント全体のコンセプト、企画・運営を任してもらえることになったのです。ハタオリマチフェスティバルという名前はLOOMの取材で通って知った、ハタオリだけではなく、この古きよきまちの息吹、住む人たちのいとなみも感じてほしかったから「ハタオリ」の後に「マチ」という言葉もつけてイベントの名前にしました。

初年度から総合的なアートディレクションや企画などで関わることになったハタフェス 。
企画・運営を任されているもう2人の仲間がいます。富士吉田で長く活動を続けてきて、現在は富士吉田の移住定住センターとかえる舎という教育NPOに所属する赤松智志くん。彼はBEEK Issue.01に登場してもらってからの仲で、富士吉田のことにとても精通しています。人も、事も。
そして、もと手紙舎でイベント運営をこなし、テキスタイルにも造詣の深い藤枝大裕くん。ハタフェスの少し前に藤枝くんとは出会え、このイベントに声をかけ参加してもらったことは運命的でした。彼はその後、産地のうねりの中の当事者になるとはこの時は想像もしていませんでした。
ハタフェスでこのメンバーで仕事をすることができることがとても大きいです。役割分担もちょうど得意分野を際立たせられ、苦手なところを支え合うことができています。今となってはこの3人でなければ成り立たないとさえ思えます。
そしてそんな僕らを120%信頼してくれ、一緒になって行動してもらえる富士山課のみなさんにはほんとうに感謝しかありません。いつも一歩引いたところで、縁の下の力持ち的な役割を担ってくれています。「富士吉田は行政にも魂がある」と以前市役所の方が自信を持って言っていました。誰しもがそうではないのかもしれませんが、少なくともぼくが見て来た方々はその通りだと思っています。こうしてきっかけはひとつの冊子から始まり、音楽が想いを繋げ、ぼくは富士山に導かれるように富士吉田に通うことになりました。
ハタオリマチフェスティバルが、はじまる。
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