【ON READING/読む時間】 #015「見えないものと 見えてくるもの」

ここに一冊の真っ白な本がある。
この本は親交のあった、音のない音楽「4分33秒」の作者・ジョン・ケージに捧げられたそうだ。
この絵本の作者、レミー・シャーリップは、俳優、ダンサー、デザイナー、絵本作家など多彩な経歴をもち、パラシュートを背負った男の子が表紙の青い絵本「よかったね ネッドくん」は、今も書店や図書館に並んでいるので、あの絵本の人かと思い出した人もいるのではないだろうか。

その絵のない絵本「雪がふっている」の
冒頭はこんな風にはじまる。

手のひらよりほんの少し大きいこの本は、ページの下方に文章が一行あるだけで、それ以外は真っ白な余白が広がっている。
この白い紙の手触りと、活版の凹凸の感触を味わう愉しみは、手に取ってみなければわからない。
白銀のようなページをキャンバスに、読み手は自分の中に風景を自在に思い描いてゆけるのだ。

話は変わって、おととしの冬に上田にいる友人が企画して私も参加させてもらった展示がある。
『Re展』と名付けられたその展示は、その辺の葉っぱや石ころや土くれ、道端で見つけたもの、木片やハギレなど、”お金と変換できるようなわかりやすい価値を持たないもの”に光を当てて、何かを作ったりすることで、そこから生まれるものを楽しもうという展示だった。

私が行った最終日のワークショップのひとつには、ソファーやカーテンの布きれを縫ったり貼ったりしてフォトフレームをつくるというものもあった。
楽しそうにおしゃべりしながら、チクチク縫う手を動かしながら、みんな自分の想像力だけを頼りに、布を思いがけない形にしてゆく。それは、捨てられてしまうような布が、いきいきと生まれ変わる瞬間だった。

どの展示も良かったけれど、とても好きだったのが、この写真のK君の作品。
石の上にネコジャラシの種がストーンヘンジのように並べられた作品は、一つの小さな「世界」だった。
それをルーペで覗いたら、他の惑星に降り立ったような気分にだってなれるだろう。

最初に紹介した沈黙の音楽も、シャーリップの絵のない絵本も、Re展の展示も、想像が膨らむほど様々な楽しみ方ができる。
何もないところに何かを生み出すことができるのは、想像力という「見えないものを見る力」なのだと思う。

ところでその「見えないものをみる力」はどうやって育むことができるんだろう?
答えはひとつじゃないと思うけれど、例えば森の中で木々の匂いを感じたり、石や植物など自然の中でじっくり観察することは欠かせない気がする。
そして、ひとりで誰にも邪魔されず好きなことに好きなだけ没頭する時間を持つことも、とても大事な気がしている。
以前聴いたラジオ番組でも、詩人の最果タヒさんがとても印象的なことを言っていた。
「孤独な時間は、自分の輪郭がはっきりする時間」だと。
見えないものを楽しめると、人生はもっとおもしろくなるに違いない。自分の周りの愛しき人たちを見ていてつくづく思う。

[BOOK LIST]

「雪がふっている」/レミー・シャーリップ
多才な活動をしながら様々な絵本を生み出したレミー・シャーリップの絵のない絵本。
読みながら自分の想像力が試されるこの本は、「最近頭でっかちになってるかも」なんて思ったりしてる大人にこそ必要な本かもしれません。