【ON READING/読む時間】 #010「Swim Swim Swim」

我が家のある小淵沢は標高が高いので、朝晩とても涼しいのだけれど、職場のある甲府は容赦なく暑い。会う人みんな「今日もホント暑いですね〜」という言葉しか口から出てこない。夏の日中の甲府は、まるで他の言葉を忘れてしまったようになる。
そんな時、湖だったり海だったり、私はひんやり水のあるところを思い浮かべる。

子供時代、うちには車もなかったし、学校のプール以外の公営のプールもなかったので、物心ついた時から近所の川が遊び場だった。
今はもう無いけれど、木立に囲まれた小さな小さな滝壺は、うちの父が網でヤマメを獲る穴場だった。そこで父の奮闘を眺めながら弟と一日中水と戯れて遊んでいた。

小学校にあがると、水泳の授業が始まった。隣のクラスの先生が素晴らしく泳ぎが上手な先生で、すいすいっと25mを潜水で泳ぎきる姿や、クロールやバタフライで水をグイグイかいて進む様はまるで海洋動物のようだった。
その泳ぎ上手な先生は、普段なんだかちょっとだけ怖いんだよなぁと思いつつも、泳いでいる時の先生は尊敬の対象でしかなく、自分もあんな風に自由自在に水とひとつになりたいと思わずにはいられなかった。
今の私の泳ぎは、この先生のおかげで作られたと言っても過言ではない。

夏の水泳の時間は、水の中の石拾い競技からはじまって、25m泳げるようになったら赤帽が白帽になり、50m泳げるようになるとそれに青線がついたり、達成感が目に見えて人前にさらされる。
団体球技やマット運動や跳び箱は苦手だけれど、水泳だけは好きだった私にとって上達していくことは自信につながり、そうやって自分のレベルが一目でわかるというのは誇らしくもあった。
けれども、大人になって周りに泳がない人がこうも多いと、もしかしたらそういうことが原因で、泳ぐことが好きじゃなくなってしまった人が結構いるのかも知れないなんて今は思う。

その後中学校に上がってからは、体調不良を理由に水泳の授業を休む女子は次第に増えていった。泳いでいるのは、自分を含めた数少ないメンバーで、体操着をきてプールサイドの日陰でおしゃべりしているクラスメイトを時折横目で見ながら、すかすかのプールを1000mを目標に、頭が空っぽになるまで泳いでいた。その後の授業は眠くて眠くて、きっとうたた寝していただろう。

話は変わって最近好きなのは、自然に囲まれた湖で泳ぐこと。
ぷかぷかと水に浮かんで空を見上げたり、澄んだ水に潜って空を飛んでいるような気分になったりすると、自分が自然の一部になったように感じる。そのなんとも言えない気持ち良さは、様々な野生の感覚が開いていって、プールで泳ぐ時とは全く異なる感覚が残る。
今年は何度か湖で泳いでいるけれど、先日参加したALPS BOOK CAMPの会場でもある木崎湖は、泳ぐのにとても気持ちのいい場所だった。
川と違って水温も低くなく、海みたいに沖に流される怖さもなく、深すぎもしないので快適そのものだ。

泳ぐということは本来は楽しくて、自分を自由にしてくれるものだと思う。
そんな具合だから最近は泳いでいる人を見るだけでうれしくなって、それだけで仲良くなれそうな気すらしてしまう。
Swim Swim Swim。そんなタイトルの写真集をBOOK CAMPで販売していた台湾の写真家の男性も、ギターを海パンに持ち替えたRさんも、休暇の似合う本屋のNさんも、水の中で出会ったH君もみんないい顔をしていた。

今年も夏が終わるまでに少しでも多く泳ぎに行けたらいいなぁと思う。
愛しい夏の日々を、すいすいと泳ぐように生きるのだ。

[BOOK LIST]

「すばらしいとき」/ロバート・マックロスキー(福音館書店)
アメリカの小さな島での、早春から夏の終わりにかけての二人の姉妹と一家の詩情にあふれる休暇の物語は、夏が来るたびに読みたくなる絵本。

「よあけ」/シュルヴィッツ(福音館書店)
湖のほとりの、夜から朝に刻々と移り変わる静かな時間と風景を描いた美しい絵本。自然の中で耳をすましたり、目を凝らしたくなるような物語です。