ADVENTURE in KOFU CITY Issue 03 「Don’t Think Twice It’s All Right」

前回のIssue02では、『甲府リノベーションまちづくり』の取り組みを紹介しました。そして、甲府市リノベーションまちづくり構想策定委員会として今までの取り組みを踏まえて一つのコンセプトを掲げました。それが『ADVENTURE in KOFU CITY』。多くの人の「やりたい」を実現するまちを目指そうというコンセプトです。山梨でいちばんのCity、甲府のまちを遊びたおしましょうよ、と。

食でやまなしを伝えるお店「Four Hearts Cafe」

こうやって多くの人が甲府のまちにコミットすることはとてもよい変化ですが、これも最近のできごとのように感じています。ぼくが高校生や大学生で甲府のまちに来ていた20年以上前は、素敵な個人商店が立ち並ぶ甲府とは違っていました。映画館はまだたくさんあったけど、シャッター街と化して行く甲府の街中。そんな甲府のまちで、当時のぼくが唯一すこし背伸びをして行くお店が中心市街地にありました。それが今回紹介する「Four Hearts Cafe」です。店主の大木貴之さんは、東京のマーケティング&コンサルタント会社に勤めていましたが、2000年にUターンしフォーハーツカフェをオープンさせました。海外の良質なワイン、ニューヨークのベーグル、スタバもまったく認知されていない時代にエスプレッソマシンをどこよりも早く導入していました。最初は世界の良いものを「山梨から」発信していたのです。カフェ文化もまったくない当時、20代そこそこの大学生のぼくは、背伸びをしてベーグルなどを頼んでいたわけです。

シャッター街にお店を作ったのは、「ぼくらがやらなかったら誰もこのまちでやらないんだろうな」と大木さんが感じたからだそう。
やまなしのワインの可能性に甲府のまちなかで誰よりも早く気づき、甲府のまちで「山梨県産のワインが飲める地域にする」というミッションを掲げます。今ではまちのあちこちで山梨のワインが飲めますが、当時大木さんたちが県内のワイナリーに通い出した当時は、どこの店も山梨のワインを扱っていなかったのです。やがて県内のワイナリーを参加者自ら計画をたてて巡るワインツーリズムを企画し、地域に外から人とお金を呼び込みました。山梨のワインの価値を発信し、そのワインが飲めるお店として人口が減り続ける甲府に県外から人を呼び込み循環させる仕組みをつくったのです。

大木さんが20年の経験を経て実践していることは「食でやまなしを伝える」ことなんです。

甲府リノベーションまちづくり構想策定委員会の委員長でもあり、全国のリノベーションスクールでユニットマスターとしてさまざまな地域に赴く大木さん。そのまちの人たちと本気で語り合い、事業の可能性を模索し、いままで甲府で孤軍奮闘していた自分の経験を生かしさまざまな新しいまちの価値を創出しています。そんな外に出たからこそ見える甲府のまちのこれからのことを聞いてみたいとインタビューをお願いしました。

BEEK(以下、B) 甲府から離れて全国のいろいろな地域の人と交流してみて、どんなことを感じますか?
大木貴之(以下、大) 一番感じるのは、他のエリアに行くとだいたいが甲府のようにまちが元気ではないので、みんなでほんとうにまちをよくしようという意識が強いんです。甲府で相対的にまちを良くしようという意識のある人ってほとんどいないじゃないですか。
B 商売としてそこまで考えなくても成り立っているからですかね?
 そう、基本的にはみんな商売ですよね、やっているのは。でもリノベーションスクールで呼ばれて行く地域は、商売をベースにしてエリアを変えて地域が持続できるようにしよう、というマーケットを作るというスタンスが多い気がします。言い換えると欲望の前に理性がある感じ。自分たちの責任というか、自分たちの代でこのまちをちゃんとしていこうという、みんなで助け合う感覚。逆に甲府はなんかもうガチンコじゃないですか。甲府はどっちかっていうと飲むぞ、稼ぐぞみたいな。
B 大木さんは約20年飲食を続けてきて、誰も山梨のワインを飲んでいない時からお店で売っていて、ワインツーリズムにもその活動は広がりました。商売の中にそういった価値を広めるというところがあったのは前職の経験があったからですかね。
 それも大きいですがそれだけではなく、甲府の中心市街地に店を出したということはそれなりに意義があると思ってやっています。自分たちがお店を開けることでそれが街になるわけです。街の最小単位というか、細胞みたいなものなんじゃないかな。昼間開けてれば昼の顔になっていくし、夜開けてれば夜の顔になっていく。そういう意識でやってきたからイベントにも出ないっていうスタンスを貫いてきたんです。儲けでいえば行った方がいいんですが、それって街とあんまり関係なくなってしまう。まちにある店はまちで稼ぐべきだとずっと思ってきました。
B 長くそのスタンスを続けているから、お客さんのぼくたちもしっかりとお店の意思を感じています。
 商売下手だとか言われちゃうけど(笑)。ワインツーリズムもそうだし、フォーハーツカフェでも山梨のワインを飲もうとかクラフトビールを飲もうとか地元の野菜を食べようとか、どちらもいろいろな人を巻き込んで成り立っています。そうやって巻きこんだ以上、責任があってその責任を果たさないとなって思っているんです。別に甲府大好きとか一言も言ったことないんだけど、まちをちゃんと大切にするというかね。たぶん他の地域のリノベーションをやってる人たちのビジネスにはそこのまちを大事にするという根底があるんですよ。ぼくも一緒だけど、ここでやるしかない、もう逃げられないっていうことが多い。甲府でフォーハーツを始めた20年前もそう。今は、そんな切羽詰まった感じがまちにないので、甲府で新しくお店を開くひとはそこまで考てやっている人は少ないですよね。

B 甲府はこの5年くらいで飲食店が約100店舗くらい増えているそうです。続いていないお店もあるとは思いますが。
 人が増えていないのに、すごいですよね。うちもよく生き残っているな(笑)。そう考えると来てくれるお客さんはとてもありがたいですよね。ぼくがリノベーションスクールで行ったところで考えると、最近の甲府(人口約18万人)の盛り上がりを見ると和歌山市(約35万人)とかよりも盛り上がっているような感じがしますよ。狭いし、コンパクトだからなおさらそう見えるのかな。でもそれって長く続くのかなって思ってしまう。まちを作っていこうという意識のもとやっているところと、なんとなく元気があるから出店したという人が多いまちでは、長くやった後の結果が違うと思うんです。後者は元気がなくなったらすぐいなくなる。その辺の根本的な違いはとても引っかかりますね。このまちは大丈夫なのかな?って。山交が潰れたりって象徴的じゃないですか。駅前でサービス業が成り立たないという現実があるんですよ。
B 山交はびっくりしましたよね。昔は西武が中心からなくなった時も同じ感覚だったかも。大木さんやその仲間のみなさんが作った仕組みで、ワインを飲む人、山梨のワイン自体は広がったと思うんです。そこから数年経ったいまこの状況で、この甲府のまちの中で全く新しい仕組みって作れると思いますか?
 まさに今迷ってますね。20年やってきて、続けてきたことで20年疲弊し続けてきてるわけだから(笑)。1事業者の視点とリノベーションやってる視点でいうと20年一事業者として働いていて、全然豊かにならないそんなまちでいいのかと。「そんなんじゃお前どっか行ったほうがいいよ」と自分に言いたくなるわけですよ。だからリノベーションの考え方が必要なんですよね。ちゃんとスモールエリアを決めれば、エリア内を飲食店だらけにしようとかあんまり考えないじゃないですか。競合作ってもしょうがないから計画的にパン屋をやろう、それを使える飲食店やろうとか。コーヒー屋作ってコーヒー使ってもらえればいいじゃん、とかサンドイッチ出したり。泊まるところも作ればぐるっと回るよね、そうすれば銭湯が助かるじゃんとか。みんなの生活が成り立つようにまちを作って行こうというのがリノベーションの根底にあるじゃないですか。ワインらしいぞ、クラフトビールらしいぞ、儲かるらしいぞとかじゃなくて、ね。

B 小さいエリアでもそういった街のグランドデザインを描ける人が不在なところはありますよね。ぼくも別の地域を見ていると、そのへんの役割を飲食の人というより、地域のデザイナーや建築チームが手がけているのを目にします。
 甲府は放っておいたら一階の路面の空き家なんてすぐに埋まっちゃう。ある意味、やりたい人がやれる街。甲府でリノベーションスクールをやってきたけど、ぼくは多いなる矛盾を抱えていて、それはやればやるほど飲食の強豪増やしてるわけなんですよ。
B 全国のリノベーションスクールでは、そのスクールで関わった人が案件になった空き家などを実際に事業として動かして家守会社を外部の有識者も入れて立ち上げていく動きが活発です。甲府の場合はある意味特徴的で、案件で関わった人が事業を直接するということはなく、中心部のよい物件ということもあり別のかたちで別の人がお店にしていくという流れが顕著ですよね。スクールでの案件化はしないけど、使用率は100%。
 やっぱり飲食店になっていることが多いですよね。ほんとうにそれが今の甲府をあらわしていると思います。いろいろな地域に行っていろいろな状況を見ればみるほどわかるけど、甲府のまちはいろいろ渦巻いていて難しい。明るい話がひとつもないみたいに聞こえるかもだけど(笑)。
B 20年のリアルボイスがあるからこそ、ぼくらが見えてくることも多いはずです。あと、リノベーションスクールでの肝の一つ、公民連携がありますよね。他地域に行った時にも必ず行政担当の方がいらっしゃると思うのですが、交流してみてどういったことを感じますか?
 とても親身になって考えていらっしゃいますね。最初の方でも言いましたが、危機感を実際感じているので様々なところに目がいっている気がします。あと、意思決定ができる方の理解が深い気がします。甲府ももちろん低いわけではないのですが、まちの危機感の差はとても大きいですね。

B ぼくも参加していますが、甲府市リノベーションまちづくり構想策定委員会の委員長としての大木さんに質問させてもらいます。この数年の動きを踏まえ、「ADVENTURE in KOFU CITY」も掲げ、これからどういった取り組みをしていったらよいと考えていますか?
 もはや甲府市は中心市街地じゃないところでやったらいいのではないでしょうかね。中心じゃなくても魅力的でスモールエリアで考えられるところはいろいろあると思うんです。遊亀公園周辺もいいですね。
B よくいく新遊亀温泉もあるし。ADVENTUREは広範囲の点を結んで行くからこそ、ADVENTUREできるんですよね。
 そうですね。そして、できることならエリアリノベーションに注力したいですね。まずは小さなエリアをよくすることを始めたい。中心市街地は、ただ空いているところに個人店が入って商売が活気づいてるように見えてるだけで、それは単に奪い合いをしているだけ。同じ業種がたくさん集まって疲弊するようなことではなく、飲食だけじゃない人が行き交うエリアを作りたいですね。洋服屋が激減したから、もう少しファッションが増えたらいいのにな。
B 小さいエリアをしっかりとディレクションするってことですよね。
 そのために必要なのが家守会社じゃないかな。今までの『甲府市リノベーションまちづくり』は中心市街地という縛りがあって、そこだけ見てしまっていたけどADVENTURE in KOFU CITYっていうADVENTURE感、もっと多様性を出してもいいんじゃないかな。簡単にいうと甲府は都市からの脱却をしたほうがいい気がします。集積して都市の機能を果たしていたつもりだったけど、人口が少なくて機能していない。その時に何か違う視点でまちを作って行くというのはありなんじゃないかなと。そうなってくると地域にあるもの、動物園でもいいし公園でもいいし図書館でもいいし、そういった公共施設をうまく活用して中心と違うエリアを作るのがよいんだと思います。ぐるりとエリアを回れるような。
B 人が集まる場所といえば、中心だったりイオンのほうだったりと決まってきてるところはありますね。
 流石にイオンじゃないところに行きたい人たちもいる。そういう人たちをどうやってまちに集めるか。そう考えると公園とか動物園とかはいいコンテンツなんですよね。そうなると公民連携は欠かせない。公園とか動物園を核としたエリアのリノベーションを行政とも連携して一緒にやっていけたら嬉しいですね。

B 甲府のまちがもっと多様になっていくと、今よりおもしろく持続可能になっていくんでしょうね。
 楽しいまちになってほしいよね。パスを回してエリアをうまく回したい。あと自治会とかそこらへんの機能がゆるくなってますよね。たぶん、昔商店街とかが機能してたときとかは「あそこには負けねえ」とか、「あっちがあれで行くならこっちはこれで行く」とか、ある意味ディレクションされていたんだろうなって思うんです。いま、隣と隣のお店の人も話しないもんね。この際、中心市街地超会議をしてみるなんてどうだろう。お店をやっている人、全員集合みたいな。ぼくはとても怖くて行けないけど(笑)。旗を振る人も大事だから、飲食キャラだけじゃない多様な人が集まってみんなで甲府のまちの未来を描けるといいですよね。

 

策定委員の一人として大木さんやメンバー、甲府市の方々と共に考えた「ADVENTYURE in KOFU CITY」というコンセプト。ただの構想、ただの妄想、机上の空論ではなく、実際にそうなれるポテンシャルが甲府市にはあり、意思と個性をもちあわせた人たちが実際にすでにいます。狭い範囲で限定するのではなく、あるものを有効に使って多様なまちの未来を描く。まちは人の集合体だと思っています。甲府のまちの未来は、ぼくたち次第なのかもしれませんね。
ラストIssue04につづく。
BEEK

Author BEEK

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